≪神様のお話し≫

■猿田彦とあめのうず女
ににぎの命は天界から落下していく道中で、不思議な神に出会いました。そこは『やちまた』といって、いくつもの道に分かれたところです。

その道の真ん中で、通せんぼをするように、輝き光る大男が立っていたのでございます。この、正体不明の大男の体から発する光は、上は天界を、下は下界のすみずみまで明るく照らしています。背丈は見上げるほどもあり、鼻が非常に長く、目は赤くらんらんと輝き、見るからに異様な雰囲気がただよっています。

天照大御神と高木(たかぎ)の神は不審に思い、

「正体を確かめてくるように・・・。」

とあめのうずめの命を派遣しました。あめのうずめは、とても女らしくて色っぽいのですが、芯がしっかりして勝ち気な神です。自分よりも数倍もある大男の前に立ち、斜に構えて豊かな胸をあらわに腕組みし「ふん!」とにらみつけました。

すると大男は、あわてて正座し、

「わたしは、国つ神(くにつかみ)、猿田彦(さるたひこ)です。天孫ににぎの命が天降(あまくだ)られると聞きましたので、道案内をしようと思い、おむかえに参りました。」

とていねいに頭をさげて答えました。

天照大御神はたいそう喜び、猿田彦をににぎの命の先導としてつけくわえました。

このようなわけで猿田彦は、道案内の神、道祖神(どうそじん)となり、また、祭りの神輿(みこし)の先導役をつとめて、天狗の格好で現れるようになったのでございます。

ほかに、ににぎの命につき従う神は、岩戸開きのときに活躍した、あめのこやねの命、ふとだまの命、あめのうずめの命、鏡作りのいしこりどめの命、玉造のたまのおやの命、の神事をつかさどる五神。そして、思金(おもひかね)の神、手力男(たぢからお)の神。さらに、穀物の神、とようけ(登由気)。門を守る神、いはとわけ(石戸別。別名櫛石窓(くしいわまど))たちです。

そして、天照大御神は皇位継承の印である三種の神器をににぎの命におわたしになりました。岩戸開きのときに使った『八尺(やさか)の勾玉(まがたま)』『八咫(やあた)の鏡』。八俣(やまた)のおろちを退治したときに尾から出てきた『草なぎの剱(つるぎ)』でございます。

それらを手放すときに、

「これからは、この鏡をわたしだと思ってたいせつに祀りなさい。思金の神は、ににぎの命の知恵となって政治の手助けをなさい。」

と命じ、従者一人一人にも「たのみましたよ」という目を向けられたのです。

この鏡と、思金の神は、いまも伊勢の内宮、五十鈴(いすず)の宮にご神体として祀っております。

こうしてすべての準備が整って、ににぎの命の、

「出発!」

という合図と共に、神々は高天原(たかあまはら)の石座(いはくら)を離れて、八重にたなびく雲をかき分けて、一路下界へと、にぎやかに進んでいかれたのでございます。

下界へ降りる道中は、ににぎの命にとっては始めて見るものばかりでした。

「この白いものは海月(くらげ)か?」

「いえいえ、星雲でございます。」

「このふしぎなものは何か?」

「天の浮橋(あめのうきはし)でございます。」

「おっ、このぷかぷかしたものは?」

「浮き島でございます。」

ににぎの命はこの浮き島に夕日を浴びてお立ちになられました。その姿があまりにもりりしいので、神々は、感動のあまり、

「おおっ!」

と深いため息をもらしました。

さて、一行はいよいよ中つ国(なかつくに)に到着し、九州は宮崎県の高千穂(たかちほ)の峰に降りられました。そこには刀や弓矢で武装した、あめのおしひの命、あまつくめの命が待っており、ここからはこの二人が先導することになりました。

しばらく歩かれて、くしふる岳の頂上に着いたににぎの命は、遠くを眺めて、

「ここからは韓国(からくに)が見晴らせ、薩摩(さつま)の国(鹿児島)の笠沙(かささ)の岬にも近い。朝日はまばゆく、夕日もたいへん素晴らしい。ここは山の幸海の幸に恵まれた本当に吉(よ)き地だ。」

と喜んでここにりっぱな宮殿を建てられのでございます。


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-古事記のものがたりより-








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